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ルイヴィトンジッピーウォレットヴェルティカル編集

 医者も薬もなく、同胞(ウタリ)は眼を見開いたまま虫けらのように死んで行った。残った男たちは死骸を丘の上に運んで葬った。死骸の上に死骸を載せ、丘の上は足の踏み場もないほどだった。  アイヌたちは対雁は呪われた土地だと言って、つぎつぎに部落を離れて行った。日露戦争が終った明治三十八年、北海道へ渡ってきてからちょうど三十年目、ようやく樺太へ帰れることになった。そのときこの辺りには僅か十軒しか残っていなかった。そして最後にはわしのとこと空知の二軒だけが残ったんだよ」  彼女は肩を落として、しみじみと話す。  「どこへ行ったって、安住の地なんかねえだよ。だけど、ここには両親や兄妹たちの墓もあるし……。だから、わしらはここで一生を終るんだよ」  話し終って、老婆は涙を拭った。  戸外でかたかたと音がして、風が出て来たようだった。人の話し声が耳に入ってくる。  「不漁だった」  文雄たちが帰って来た。  「文雄がとんでもないことをしてしまって申し訳ありません」  母親は深々と頭を下げた。  「クラスの者がみんな待ってるから、停学が解除されたら直ぐ出てこいよ」  孝二は文雄に声をかけた。  「待ってるなんて嘘っぱちだ」  文雄は眼を剥いた。  「花田先生もとても心配して色々と骨を折ってるんだ。せっかく退学にならずに済んだのに、自分から学校を退めたりしたら、それこそ君の負けになってしまうよ」  「負けたっていいんだ。こんな貧乏のくせに、高校にあがること自体が間違っていたんだ」  「君の苦しい気持ちは分るがここを切り抜けてこそ、強い人間になれるんだ」  孝二は声を張り上げて言った。
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