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 噂《うわさ》を聞いた忠長が、苦々しい事に思い、城内に召しよせて、藩士の然《しか》るべきものと立合わせたが、唯《ただ》一人として、神野のからだに木刀を触れ得るものさえない。  九尺の角杖宙に舞うとみれば、押詰、乱留、後杖、待車、間込、切懸、真進、雷打、払留、横切留の十法、さながら飛瀑《ひばく》の散る如く、車輪坂を転ぶ如く、対者はただこれを受けて、汗をぬぐいつつ一歩一歩と引き下がる以外に途はないとみえたのである。  この時、立現われたのが、源之助であった。  三尺の木太刀一本、無造作にひっさげると、いきなり、神野右馬允のからだの四周を、疾風の如く走り出した。  神野が、右肩をふせがんとすれば、源之助は既に背後にあり、神野が背後をふりむけば、源之助早くも、もとの正面にあり、四周を素晴らしい速度で旋回しつつ打ち込んでくる源之助疾風の太刀使いに、さすがの神野も、眼くらめき、流汗淋漓《りゅうかんりんり》、思わず、よろめくところを、したたかに肩を打たれて、 「無念——参った」  と、大地に片膝ついた。  普通の形で、対戦すれば、進藤武左衛門が如何《いか》に神道流槍術の名手であるとて、到底、源之助疾風剣の早業には敵し得まい。しかし、忠長の命によって、源之助の面前には、陣幕が張りつめられ、その軽捷な旋回を不可能にしている。  最も得意とする術を封ぜられ、しかも、後手をとることを余儀なくされた源之助に、果たして勝算ありや——人々は、概《おおむ》ね好青年源之助に好意を寄せていたので、大いに懸念した。  今や、しかし、二人は既に幕をへだてて、死活の闘いを、開始したのである。  忠長を中心とする座席からは、陣幕の両側がみえるが、二人の戦士は、勿論《もちろん》、対手の姿をみることは出来ぬ。  源之助は、抜き放った大刀を下段に構えて、試合開始の合図と共に陣幕の際を中央から、東へ向って、すべるように走った。雲の上を走る如く、全く、些《いささか》の足音も、衣《きぬ》ずれさえもさせぬ。  進藤は、陣幕の中央あたりに佇立《ちょりつ》したまま、じっと瞳をこらし、耳をすませていた。長槍を横に倒し、穂先をわずかに上に向けている。  両眼が、半ば閉じられるかのように細くなり、殆ど閉じられたかと見えた刹那《せつな》かっと見開かれた。そのまま、これも、さながら霞《かすみ》の波に乗った如く、音もなく、そよぎもなく、東へ向って、つと歩を移す。  進藤が、ぴたりと足をとめて、槍先で狙ったところをみて、忠長はじめ、幕の両側を見得る地位にある者は、一斉に、あっと息をのんだ。  穂先は、正しく幕の向う側、源之助の胸板の真只中を指しているのである。  源之助が刺される——と、人々が感じた時、その穂先が、一閃《いっせん》、稲妻の如く走った。  穂先が、陣幕を貫いた瞬間、源之助のからだは、跳躍した。右手が白光を垂直に上げ、陣幕を杭《くい》に結びつけた縄を切っておとした。
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