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null「自分のことは自分がいちばんよく、知っております。私がこんななりをしても、道化にしか見えないでしょう?」 「ご謙遜をおっしゃらなくても」 「そうですよ。ピアズどのは逞しい体格をしていらっしゃるので、何をお召しになられても似合いますぞ」 「まったく羨《うらや》ましい限りですよ」  エルバ・リーアの尻馬に乗って、他の面々までが口々に褒める。とはいえただ褒めているわけでなく、ピアズを逞しいと言うのは暗に、伝統ある家柄の商人である自分たちとは違う、と蔑《さげす》んでもいるのだ。  孤児として肉体労働で日銭を稼ぎ、のちにダイクン家に雇われたあとも、船の荷積みや荷おろしを手伝っていたピアズは、名門の商家に生まれ、乳母《おんば》日傘《ひがさ》で育ったかれらとはあきらかに違う。あるじに商才を見込まれたピアズは、ひとり娘と結婚することで、ダイクン家を継いだのである。綿花のみを商う、小アルテの中でもごく零細であったダイクン家をここまで成長させたのは、ピアズの才覚によるものだった。 「——おお、そろそろですな」  同僚の声とほぼ同時に、あたりに鐘の音が鳴り響いた。 「ピアズどのも、お座りください」  促されてピアズは、エルバ・リーアの隣の椅子に腰をおろす。  このエルバ・リーアは、デルマリナでも五指に入る名家に生まれた男だ。そのうえピアズに匹敵する商才をもち、名家の上に安穏《あんのん》することなく、勢力をのばし続けている。ハイランドとの交易に端を発した政治抗争では、一時はピアズと手を組みもしたが、現在では表向きにも水面下でも、ピアズにとって最大の敵であるといえるだろう。  鐘の音がおさまると「お召し船」はゆっくりと動きはじめた。  帆船ではなく、古代の手漕ぎ船だ。右舷に十七本、左舷にも十七本の櫂が、船の腹から突き出している。船倉には、三十四人の漕ぎ手がずらりと並び、艇長の掛け声にあわせて櫂を操る。ザッザッと海水を掻く音と、船の軋む音がまるで互いに追いかけあうように聞こえた。  港を出た「お召し船」は、多くの帆船や小舟がすでに待機する海域まで進んで、やはり昔ながらのいびつな形をした錨《いかり》をおろした。いよいよ、海と契約をむすぶ儀式の始まりである。  ふたたび鐘の音が鳴り響く。それを合図に総務会の五人は船首へと進み、用意された供物を手に取った。 「海よ、我は汝《なんじ》と契約する——」  最初のひとりが海の上に手をかざし、契約の文句を唱えはじめた。彼の手にあるのは、掌ほどの大きさの黄金の硬貨である。表面には一流の細工師の手により、デルマリナの紋章が刻まれている。  金貨が海に投げ込まれると、周囲を取り巻く船々から拍手と喝采がわきおこった。