l型擁壁施工単価
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null「奥さんが薬局手伝ってるのよね」 「夜はいつでも往診してくれたよな。あの先生」 「奥さんはずっと起きて待ってるんですって。私が盲腸で入院してたとき、病室に来てくれたことがあるのよ」 「盲腸か……」 「ウサギよ」 「知ってた?」 「あたりまえよ。あの穴のあいたワラ半紙、病室の壁に貼って、毎晩寝る前に、バカ、バカ、って言ってたのよ。そうするとぐっすり眠れたの。でもね、そのうちに、ほんとに謝りたいことは穴のところにあるんじゃないかって思ったりもしたのよ」 「おれは自殺する方法考えてた。あの頃、よく浅間山が夜に小さな爆発を起してたろう。真赤な火が夜空に散ってさあ。だから、あの火口にとび込むのが一番確実だってとこまで考えてた」 「生きてたわね。おたがい」 「単純なことだけど、いいことだな」  初夏の夜は短かかった。ぼくは苺をつまみながら、額の汗を腕でぬぐいつづけ、千絵子はノースリーブの上にうすい白のカーディガンをはおった。  午前零時を過ぎても、教室の中で眠る者はなかった。五、六人の集団で、わざと受験以外の話題を声高に話してふざけ合っているのは都内の高校の出身者たちで、学生服を着て、黙々と参考書に赤線を引いているのは地方から出て来ている者たちらしかった。ぼくも、教室を回って仲間を探しているらしい高校時代の同級生二、三人に会ったが、彼らはとなりに座る千絵子とぼくを信じられないような目で見たあと、力なく、よっ、と手を挙げて出ていった。  ぼくたちは山の診療所の経営方針や、生まれてくる子に跡をつがせるべきか、といった空想を語り明した。それは、参考書に赤線を引いている者たちに対して申し訳ないような気になるほど、心浮き立つ語らいだった。  翌朝、夏期講習の受付をすませて、お茶ノ水の駅のホームで別れるとき、千絵子は、 「ねえ、ほんとにやってみない」  と、言った。 「もちろんだ」  ぼくは照れずに応えた。